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まず落ち着いて。預貯金の相続手続きで最初にすべきこと
ご家族を亡くされ、心身ともにお辛い状況のことと存じます。悲しみに暮れる間もなく、さまざまな手続きに追われ、何から手をつけてよいか分からず途方に暮れてしまうお気持ちは、痛いほどよく分かります。
特に、故人の大切な財産である預貯金の相続手続きは、聞き慣れない言葉や複雑な書類集めに戸惑う方が少なくありません。しかし、どうかご安心ください。一つひとつ手順を追って進めれば、手続きは進めやすくなります。
この記事では、預貯金の相続手続きの全体像から、必要書類、期限に至るまで、皆さまが抱える不安や疑問を解消できるよう、分かりやすく丁寧にご説明します。まずは焦らず、この記事を道しるべとして、最初の一歩を踏み出してみましょう。
故人の取引金融機関をすべてリストアップする
相続手続きを始めるにあたり、最初に行うべきことは「故人がどの金融機関に口座を持っていたか」を正確に把握することです。これが、すべての手続きのスタートラインになります。
ご自宅などを整理しながら、以下のようなものを探してみてください。
- 通帳、キャッシュカード
- 銀行や信用金庫からの定期預金のお知らせなどの郵便物
- カレンダーや手帳などに書かれた金融機関名のメモ
- 公共料金の引き落とし通知書
見つけた金融機関は、すべてノートなどにリストアップしておきましょう。このリストが、今後の手続きをスムーズに進めるための大切な地図になります。
金融機関に連絡し、口座を凍結してもらう
取引のあった金融機関を把握できたら、次にそれぞれの金融機関に電話などで連絡し、口座名義人が亡くなったことを伝えます。連絡を受けると、一般に金融機関はその口座を凍結(取引停止)することが多いです。
「凍結」と聞くと少し怖い響きかもしれませんが、これは故人の大切な財産を守るための重要な手続きです。口座が凍結されると、その口座からの入出金や引き落としが一切できなくなります。これにより、一部の相続人が勝手にお金を引き出してしまうといったトラブルや、不正な利用を防ぐことができるのです。
連絡の際は、故人の氏名、生年月日、亡くなった日などを伝え、ご自身が相続人であることを伝えましょう。今後の手続きについて、金融機関の担当者から案内があるはずです。
預貯金相続の全体像:4つのステップで流れを理解しよう
預貯金の相続手続きは、大きく分けると以下の4つのステップで進んでいきます。全体像を掴むことで、今自分がどの段階にいるのかが分かり、安心して手続きを進めることができます。

ステップ1:相続人と相続財産を確定させる
まず、相続の土台となる2つのことを確定させます。
一つは「誰が相続人なのか」です。これは、故人(被相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本など)を取得し、法的に相続権を持つ人をすべて洗い出すことで確定します。
もう一つは「預貯金がいくらあるのか」です。金融機関に依頼して、故人が亡くなった日時点での「残高証明書」を発行してもらいます。これにより、相続財産の正確な金額が分かり、後の遺産分割の基礎となります。
ステップ2:遺言書の有無を確認する
次に、故人が遺言書を残していないかを確認します。遺言書の有無によって、その後の手続きの流れが大きく変わるため、非常に重要なステップです。
遺言書は、ご自宅の金庫や仏壇、貸金庫などに保管されていることが多いです。また、公証役場で「公正証書遺言」として作成している可能性もあります。心当たりのある場所を探してみましょう。もし、法務局で保管されていない自筆の遺言書(自筆証書遺言)が見つかった場合は、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になることも覚えておきましょう。遺言書の作成や検認についてご不明な点があれば、「相続問題を未然に防ぐ!遺言書作成と司法書士の活用法」の記事も参考にしてください。
ステップ3:遺産の分け方を話し合う(遺産分割協議)
遺言書がなかった場合、または遺言書に記載のない財産があった場合は、相続人全員で遺産の分け方を話し合います。これを「遺産分割協議」と呼びます。
預貯金を誰が、いくら相続するのかなどを具体的に決め、全員が合意したら、その内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。この書類には、相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付する必要があります。遺産分割協議書は、金融機関での手続きにおいて、相続人全員の合意があったことを証明する非常に重要な書類となります。
ステップ4:金融機関で払戻し・名義変更手続きを行う
ここまでのステップで集めた書類(戸籍謄本、遺言書または遺産分割協議書、印鑑証明書など)と、金融機関所定の払戻請求書などを窓口に提出し、いよいよ払戻しや名義変更の手続きを行います。
書類に不備がなければ、後日、指定した口座に故人の預貯金が振り込まれたり、名義変更が完了したりします。これで、通常の預貯金の相続手続き(金融機関での払戻しや名義変更手続き)が完了する場合が多いです。ただし、事情によっては追加手続きが必要になることがあります。
【ケース別】預貯金相続の必要書類チェックリスト
相続手続きで最も大変なのが、必要書類の収集です。ご自身の状況に合わせて、どの書類が必要になるのかを事前に確認し、効率よく準備を進めましょう。ここでは、代表的な3つのケースに分けてご紹介します。

【共通】どのケースでも基本的に必要な書類
まずは、どの相続手続きにおいても基本となる書類です。これらは、亡くなった方と相続人の関係を公的に証明し、手続きを行う本人の意思を確認するために不可欠です。
| 書類名 | 取得場所 | 主な役割・注意点 |
|---|---|---|
| 被相続人(故人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等 | 本籍地の市区町村役場 | 相続人が誰であるかを確定させるために必要です。 |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 | 相続人が現在も生存していることを証明します。 |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 住所地の市区町村役場 | 金融機関の書類に押す印鑑が実印であることを証明します。(発行後3ヶ月〜6ヶ月以内のものを求められることが多いです) |
| 被相続人の通帳・キャッシュカードなど | (故人の遺品) | 口座番号などを特定するために必要です。 |
| 手続きをする代表相続人の実印と本人確認書類 | 代表相続人が所持 | 窓口で手続きする方の本人確認(運転免許証など)が必要です。 |
参考:戸籍のABC(Q1) – 総務省
参考(地域別の例):戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)などを窓口で請求する – 横浜市
ケース1:遺言書がある場合
遺言書がある場合は、その内容に従って手続きを進めます。遺産分割協議が不要になるため、手続きは比較的シンプルになります。
- 【共通】の書類一式
- 遺言書(原本)
- 検認済証明書(自筆証書遺言の場合、家庭裁判所で検認手続き後に取得)
- 遺言執行者の選任審判書謄本(遺言執行者を家庭裁判所が選任した場合)
ケース2:遺産分割協議を行った場合
遺言書がなく、相続人全員で話し合いを行った場合は、その合意内容を証明する書類が最も重要になります。
- 【共通】の書類一式
- 遺産分割協議書(相続人全員の実印が押されたもの)
金融機関は、この遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書を照合することで、全員の合意が取れていることを厳格に確認します。そのため、内容に不備がないよう、慎重に作成する必要があります。
複数の銀行口座がある場合の手続きを効率化するコツ
故人が複数の金融機関に口座を持っていた場合、それぞれの金融機関で同じような手続きを繰り返す必要があり、相続人の方の負担は非常に大きくなります。ここでは、その負担を少しでも軽くするためのコツをご紹介します。
なぜ大変?金融機関ごとに異なるルール
複数の金融機関での手続きが大変な理由は、各金融機関で手続きのルールや必要書類の書式が微妙に異なるためです。
ある銀行ではこの書類で良かったのに、別の銀行では追加の書類を求められたり、印鑑証明書の有効期限が「発行後3ヶ月以内」だったり「6ヶ月以内」だったりと、対応がバラバラなのが実情です。そのたびに何度も窓口に足を運んだり、書類を取り直したりするのは、本当に骨が折れる作業です。
司法書士の現場から ご相談者様から「銀行ごとに言うことが違って、たらい回しにされているようで本当に疲れてしまった」というお話を伺うことは少なくありません。特に、故人が事業をされていたり、投資が趣味だったりすると、取引金融機関が10を超えるケースもあります。そうなると、戸籍謄本などの書類を何セットも集め、各銀行の異なる様式に何度も同じ内容を記入し、相続人全員から署名と実印をもらう…という作業を繰り返すことになります。これは、時間的にも精神的にも大変なご負担です。もし「もう限界だ」と感じたら、無理せず専門家を頼ることも考えてみてください。当事務所では、ご依頼いただく際の業務範囲や費用について事前に丁寧にご説明します。

効率化の鍵「法定相続情報証明制度」の活用
複数の金融機関で手続きをする際に、ぜひ活用したいのが「法定相続情報証明制度」です。
これは、一度、法務局に必要な戸籍謄本一式と相続関係を一覧にした図(法定相続情報一覧図)を提出すれば、登記官がその内容を証明する「法定相続情報一覧図の写し」を無料で交付してくれる制度です。この写しを各金融機関に提出すれば、大量の戸籍謄本の束を何度も出し直す必要がなくなります。
手続きの時間と、戸籍謄本の発行手数料を大幅に節約できる、非常に便利な制度です。
参考:「法定相続情報証明制度」について – 法務局 – 法務省
書類の準備は「多めに」が鉄則
役所で戸籍謄本や印鑑証明書を取得する際には、金融機関の数よりも少し多めに取得しておくことをお勧めします。
不動産の相続登記や、その他の手続きでも必要になることがありますし、万が一提出した書類に不備があって再提出を求められた場合でも、手元に予備があればすぐに対応できます。後から「一枚足りない!」と慌てて役所に走る手間を省くための、ささやかですが重要なコツです。
預貯金の相続手続きに期限はある?放置するリスクと罰則
「この手続き、いつまでに終えなければいけないの?」というご質問もよくいただきます。結論から言うと、預貯金の払戻し手続きそのものに、法律で定められた明確な期限や罰則はありません。しかし、だからといって放置しておくのは様々なリスクが伴います。
払戻し自体に期限はないが、放置はNG
休眠預金等活用法では、原則として10年間取引がない預金は休眠預金の対象となり、所定の公告・手続きの後に預金保険機構へ移管される場合があります。休眠預金になると、払戻しの手続きが通常よりも煩雑になることがあります。
また、最も大きなリスクは、時間の経過とともに相続関係が複雑化してしまうことです。例えば、相続人の誰かが亡くなってしまうと、その子どもが新たに相続人(数字相続)となり、話し合うべき相手が増えてしまいます。関係者が増えれば増えるほど、遺産分割協議をまとめるのは困難になります。手続きはできるだけ早めに進めるのが賢明です。
注意すべきは「相続税申告」と「相続放棄」の期限
預貯金の手続き自体に期限はなくても、関連する他の相続手続きには厳格な期限が定められています。特に重要なのが以下の2つです。
- 相続税の申告・納付:相続財産の総額が基礎控除額を超える場合、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告と納税をしなければなりません。期限を過ぎると延滞税などのペナルティが課せられます。
- 相続放棄:故人に借金などマイナスの財産が多い場合に、財産を一切相続しないことを選択する手続きです。これは、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。もし故人の預貯金を使ってしまうと、相続を承認したとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があるので注意が必要です。借金があるかもしれない場合は、「相続放棄をしたい方へ」のページもご覧ください。
これらの期限に間に合わせるためにも、預貯金の残高確定などは早めに行う必要があります。
手続きが複雑で不安なときは、専門家への相談も選択肢に
ここまで読んでみて、「やっぱり自分ひとりでやるのは大変そうだ…」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。書類の収集や金融機関とのやり取りが複雑で不安なとき、お仕事などで時間が取れないときは、無理せず専門家に相談することも大切な選択肢です。

司法書士に依頼できること・メリット
私たち司法書士は、相続手続きの専門家として、皆さまの預貯金相続をトータルでサポートすることができます。具体的には、以下のような業務を代行します。
- 面倒な戸籍謄本等の収集
- 法定相続情報一覧図の作成・取得
- 遺産分割協議書の作成
- 各金融機関の必要書類の取り寄せ、作成、提出
- 不動産の相続登記(名義変更)
専門家に依頼する最大のメリットは、時間的・精神的な負担が大幅に軽減されることです。煩雑な手続きから解放され、故人を偲ぶ時間に充てることができます。また、法的に正確な書類を作成することで、後々の相続トラブルを防ぐことにも繋がります。
こんな方は専門家への相談をおすすめします
特に、以下のような状況に当てはまる方は、一度専門家にご相談いただくことをお勧めします。
- 平日は仕事で役所や銀行に行く時間がなかなか取れない方
- 相続人が多い、または遠方に住んでいて連絡を取り合うのが大変な方
- 故人の取引金融機関が複数あり、手続きが煩雑だと感じる方
- 他の相続人との話し合いがスムーズに進まない、または不安がある方
- 相続財産に不動産が含まれており、まとめて手続きを済ませたい方
宇都宮でのご相談なら司法書士おおもり事務所へ
司法書士おおもり事務所は、栃木県宇都宮市で相続問題に特化しており、これまで多数の相続案件に携わってまいりました。私たちは、司法書士事務所の「敷居が高い」というイメージをなくし、どなたでも気軽に相談できる「身近な街の法律家」でありたいと願っています。
当事務所(栃木県宇都宮市宮本町16番7号、司法書士 大森亮一、栃木県司法書士会所属)では、ご相談には司法書士本人が直接対応し、専門用語を避け、分かりやすい言葉で丁寧にご説明するよう努めております。初回のご相談は60分無料(要予約・ご来所での面談に限ります)ですので、費用を気にせず安心してお話しいただけます。
「何から始めればいいか分からない」「少しだけ話を聞いてみたい」そんな些細なことでも構いません。一人で悩まず、まずはお気軽に私たちにご相談ください。あなたの不安に寄り添い、最善の解決策を一緒に見つけていきます。

私は栃木県那須塩原市(旧黒磯市)出身で、現在は宇都宮市を拠点に司法書士として活動しています。中学生の職場体験がきっかけで司法書士の世界に興味を持ち、相続や遺言、相続登記などをご相談いただくなかで、これまで県内で1,000件以上のお手伝いをしてきました。特に相続放棄や遺言書作成、不動産登記の分野では、気軽に相談できる雰囲気を大切にしており、初回相談は無料で対応しています。税理士や宅建士などと連携し、多面的な視点からお悩みに寄り添うことを心がけています。栃木の地域に根ざし、一人でも多くの方の安心を支える存在でありたいと願っています。
